介護は、今のところ自分には関係ない。 そう思っている人に、少し時間をもらえませんか。
シリーズ
財務省:介護サービスは「利益率が高い」報酬の適正化を要請。←これは本当に正しいのか?
1.本当に利益率が高いのか?実際の収益と構造から確認してみましょう。
2.本当に利益率が高いのか?介護報酬を下げた結果どうなったか見てみましょう。影響はどのようになるかも一緒に考えていきましょう。
3.「介護の仕事、来てほしい」と言いながら、その職場を壊そうとしている話。行政の矛盾した言い分を見ていきましょう。
番外編.筆者がなぜ訪問介護員を勧めるのか。その理由について解説していきます。
2025年、年間556の事業所が消えた
ニュースになったのは「倒産91件、過去最多」という数字だけでした。
でも実態はもっと深刻です。 倒産の裏側で、静かに店じまいした事業所が465件。 合計すると、2025年1年間で556の訪問介護事業所が消えた計算になります。
全国47都道府県に単純に割ると、1県あたり約12か所。
「どこか遠い話」ではありません。
事業所が消えると、何が起きるのか
利用者の家族に電話が来ます。
「急なお知らせで驚かせてしまうんですが、担当のヘルパーさんの事業所が来月で閉じてしまうみたいなんです」
その一言で失われるのは、単なる「サービス提供者」ではありません。
「このお茶碗じゃないと食が進まない」 「タオルはこれじゃないと嫌がる」 「お嫁さんに気を遣わせたくない、という本音を知っている」
長年積み上げた、書類に書ききれない生活の文脈ごと、消えます。
特に認知症のある方にとって、馴染みの顔は「安心」そのものです。 新しいヘルパーさんが来るたびに「この人、誰?」と警戒が始まる。 介護拒否が起きる。家族がその対応にエネルギーを使う。
誰も悪くないのに、誰かが傷つく。 これが今、全国で繰り返されています。
なぜ訪問介護だけが、3年連続で倒産最多なのか
構造的な問題があります。
訪問介護の収益モデルを、実際の数字で見てみます。
要支援の利用者1人に1回訪問した場合、国と利用者から受け取る報酬は約2,000円。 そこからヘルパーへの賃金を支払うと、事業所の取り分は1訪問あたり約500円。
週3回・40人の利用者がいたとしても、月の粗利は24万円。 そこから事務所の家賃、光熱費、記録ソフト、消耗品……を差し引いていく。
これが上限に近い、かなり恵まれたモデルです。 実際はこれ以下の事業所がほとんどです。
2024年度には、この基本報酬がさらに2%以上引き下げられました。
財務省は「介護は利益率が高い」と言っています
この引き下げの根拠として、財務省は「介護サービスの利益率は他産業より高い」と主張しています。
本当にそうでしょうか。
財務省が使った数字には、大きなカラクリがあります。
施設に併設された訪問介護事業所——つまり、移動コストも人員確保も圧倒的に有利な条件で運営できる事業所——が、平均値を大きく押し上げているのです。
地域に単独で立って、一軒一軒を自転車で回っている小規模事業所の現実とは、まったく別の数字です。
実態として、収益率が5%を下回る事業所は半数を超えています。
さらに言えば、その「利益」の大半は人件費に充てられています。介護業界の平均人件費率は約64%。残った数%から設備更新や借入返済を賄う。それが介護経営の現実です。
「利益率が高い産業」が、なぜ過去最多ペースで倒産し続けるのか。 この矛盾に、正面から答えてほしい。
前回の失敗を検証しないまま、また同じ方向へ
2026年4月、財務省は再び「介護報酬を1%引き下げれば約1,420億円の費用を抑制できる」という試算を提示しました。
2024年度に引き下げた結果、何が起きたか。 訪問介護の倒産が過去最多になりました。 地域の小規模事業所が消えました。 利用者と家族が、慣れ親しんだヘルパーさんを失いました。
その検証を十分にしないまま、また同じ処方箋を出そうとしている。
失敗の総括なき政策は、同じ失敗を繰り返すだけです。
「生産性を上げれば解決できる」という話について
財務省は「生産性向上や職場環境の整備に取り組む事業者が選ばれていく」とも言います。
介護は、人が人を支える仕事です。
認知症のある人の手を握ること。 体が不自由な人の入浴を介助すること。 「今日も来てくれたね」という言葉を受け取ること。
これをどう機械化・省人化するのか。 地方の、利用者が点在する地域で、都市部と同じ生産性をどう実現するのか。
理念は理解できます。でも現場には、最初から望めない条件があります。
この制度が崩れたとき、困るのは誰か
介護職員の必要数は、2040年度には約272万人と試算されています。 今より60万人近く多く必要です。
その人たちに選んでもらえる仕事にするには、まず賃金が必要です。 今も全産業平均より月8万円以上低いままです。
「処遇改善加算を積み上げてきた」と言いますが、他産業はそれを上回る賃上げをしています。差は縮まるどころか、広がっています。
報酬を下げれば、事業者は賃上げができない。 賃上げができなければ、人が来ない。 人が来なければ、サービスが届かない。
介護が崩壊したとき、困るのは経営者でも政策立案者でもありません。 サービスを必要とする、あなたの親や家族です。
最後に
私は訪問介護の事業を8年やってきました。
この仕事は「お金を持っている人が始める事業であって、お金が欲しい人が始める事業ではない」と、自分の記事に書いたことがあります。
それでも続けているのは、利用者さんの顔が見えるからです。 スタッフの生活が見えるからです。
数字の話をしているのではありません。 誰かの生活の話をしています。
この現実を、もう少し多くの人に知ってほしい。 介護はまだ、あなたの話です。
参考:東京商工リサーチ「2025年介護事業者倒産動向」/財務省財政制度等審議会(2026年4月)/厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」
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財務省:介護サービスは「利益率が高い」報酬の適正化を要請。←これは本当に正しいのか?
1.本当に利益率が高いのか?実際の収益と構造から確認してみましょう。
2.本当に利益率が高いのか?介護報酬を下げた結果どうなったか見てみましょう。影響はどのようになるかも一緒に考えていきましょう。
3.「介護の仕事、来てほしい」と言いながら、その職場を壊そうとしている話。行政の矛盾した言い分を見ていきましょう。
番外編.筆者がなぜ訪問介護員を勧めるのか。その理由について解説していきます。

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