【現場の声】「家庭で支える前提」の訪問介護制度が、担い手を限界に追い込んでいる【中編】

第三章 福祉事業者と福祉職員からみた制度の問題点

我が国では、介護は家族が行なってきたという歴史から、現在女性の社会進出、結婚後の共働き等昔と生活を取り巻く環境が大きく変わったにもかかわらず、制度全体が「家族がある程度支えること」を前提としたままである。家族介護をなしに、訪問介護だけでは生活全体を支えるには限界があります。

現在の介護制度は、「家族がある程度支えること」を前提に設計されており、訪問介護だけで生活全体を支えるのは困難なケース「支援が入っているのに暮らしていけない」という矛盾した状況が生じています。

さらに、制度とは別に、訪問介護の現場では深刻な人手不足が進行しており、利用者が希望する時間帯にサービスを受けられない事態も多発しています。

これらは一見別の問題に見えますが、実際には制度設計と運用の限界が複雑に絡み合った“構造的課題”であり、当事者・家族・ヘルパーすべてを追い詰める要因となっています。

近年では、効率的な運営によって収益を確保する「施設的訪問介護」が増加しています。これはサービス提供側の工夫の成果であり、否定されるべきものではありません。

しかし、私たちのように地域の一軒一軒を回り、1対1の個別ケアを重視する「在宅型訪問介護」とは、そもそもの前提条件が異なります。

それにもかかわらず、両者に同一の報酬体系が適用されている現状には、大きな問題があります。サービスの持続可能性や現場の公平性を損なう可能性があるため、それぞれの形態に即した報酬設計が必要です。

施設的訪問型(効率運営が可能なケース)

  • 同一建物での対応
  • 移動時間・調整が最小限
  • より低単価でも運営が成り立つ

在宅型訪問介護(個別支援型)

  • 1人ひとりの家を回る
  • 移動時間・調整労力が大きい
  • 報酬水準を上げないと成り立たない

このように運営形態に大きな違いがあるにもかかわらず、報酬体系が一律である現状では、在宅型訪問介護が一方的に不利になる設計です。本来は、それぞれの特性に応じた報酬が設定されてこそ、公平な制度といえるはずです。

たとえば、障害福祉の「重度訪問介護」では、長時間の支援が前提にもかかわらず、時間単価が最低賃金に近い設定となることも少なくありません。

単純な制度間比較で「こっちの単価が高い・低い」と議論するのではなく、各サービスの特性に応じた設計が求められます。

特に在宅型訪問介護では、移動、記録、連絡調整といった「見えにくい業務」が多く、これらが報酬に十分反映されていない現状があります。

もちろん、制度上「処遇改善加算」や「ベースアップ加算」など、訪問介護員の収入を一定程度確保する仕組みは整備されています。私たちの事業所でも、加算以外にも移動手当の支給や、複写式の記録表導入など、現場への工夫によって、ヘルパーが働いた分の対価を実感できる環境を整えてきました。その結果、信頼関係が深まり、安定的な運営が実現しています。

しかしながら、こうした努力を重ねてもなお、「非効率」あるいは「高コスト」とされる評価を受けることがあります。制度設計の多くが、複数の職員で分業しやすい施設的モデルを前提としているため、私たちのような個別ケア型の事業所は報酬面で不利になりがちです。

私たちはこうした構造的な壁に直面しながら、地域のニーズに応えるべく工夫を重ねています。決して“高コスト”なだけの事業所ではなく、地域にとって不可欠な存在として、生活に寄り添った支援を続けています。

本来は、多様な運営形態が共存し、それぞれに応じた制度設計がなされるべきです。そうすることで初めて、制度としての公平性と現場の持続可能性が両立できると、私たちは考えています。

在宅介護のコストパフォーマンスは圧倒的に高い

データでも明らかです

  • 施設入所:1人あたり月30万円前後
  • 在宅介護(訪問+通所+福祉用具):月10〜15万円程度(自己負担は1〜3万円前後)

それでいて、本人のQOL(生活の質)も高く保ちやすい

なのに、制度上は「削減対象」「軽視対象」として扱われる。

そして何よりも、その“コスト削減”を担っているのは、私たち在宅介護職。

それにも関わらず、低報酬低評価・不安定な雇用・少ない手取りという現実。

これは完全に矛盾です。

訪問介護が減ると、困るのは「低所得者層」

現実には

  • 生活保護受給者を除く低所得の高齢者
  • 特養には入れず、有料老人ホームの自己負担は高く
  • 結果的に訪問介護が「唯一の選択肢」

という世帯が数多くあります。それにもかかわらず、訪問介護の報酬を下げることは、

「最後のセーフティネットを縮小すること」に他なりません。

これは、弱者の孤立化を招き、最終的にもっと大きな社会コスト(入院、介護難民、孤独死、虐待)を生むリスクを孕んでいます。

訪問介護の崩壊はもう目の前に迫ってきています。
私たちはこのまま崩壊を見過ごすしかないのか?
介護の未来はどうなるのか?

 次回
【現場の声】「家庭で支える前提」の訪問介護制度が、担い手を限界に追い込んでいる【後編】
・第四章 制度改善のための具体的な提案

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