今回は介護現場から見える政治と財政の話を考えてみます。
―社会保険料の仕組みから見える「政治の旨み」の差―
介護や福祉の現場にいると、どうしても「お金が足りない」という現実に直面します。
職員の給与はなかなか上がらず、人材不足は深刻。利用者や家族のニーズは増えているのに、制度の改善はスローペースです。
一方でニュースを見れば、海外に対する支援で何百億円、時には数千億円というお金があっさり決まっている。
「なんで国内の介護や福祉にはお金を渋るのに、外交ではこんなに太っ腹なの?」
これは現場で働く人だけでなく、多くの国民が感じている違和感だと思います。
その答えを一言で言えば――
「政治家にとって、票や支持につながるかどうか」。
これに尽きます。
財務省と政治家の関係
よく「財務省がケチだから福祉にお金が回らない」と言われます。
確かに財務省は「財布の番人」で、基本的には「出さない」「抑える」方向に動きます。
でも、それがすべてではありません。
政治家が強く「必要だ」と押し切れば、財務省も渋々認めざるを得ない。
逆に、政治家が本気で言わなければ、財務省の「抑える」がそのまま通ってしまう。
つまり最終的には、政治家がどこを向いているかでお金の行き先は決まるんです。
福祉が後回しにされる理由
ではなぜ、介護や福祉にはお金が回りにくいのでしょうか。
理由はシンプルで、票になりにくいからです。
- 介護サービスを利用する人や家族は感謝はしても「この政治家に投票しよう」とまではなりにくい。
- 職員は疲弊していて選挙活動や政治に関わる余裕が少ない。
- 支援しても、一人ひとりの票の数は限られている。
福祉に予算を増やしても、政治家にとっては「派手な成果」として国民に伝わりにくい。
そのため優先順位は低くなり、財務省の「抑える」がそのまま通りやすいのです。
外交にお金が動きやすい理由
一方で、外交の舞台ではお金が大きく動きます。
その背景には、政治家にとっての「得」が詰まっています。
1. ニュースで大きく取り上げられる
国際会議や首脳会談で「日本は〇億ドル支援します」と発表すれば必ず報道されます。
テレビには国旗の並んだ会場や首脳同士の握手が映り、視覚的にも「リーダーが活躍している」印象を与える。
地味な介護報酬改定とは、目立ち方がまるで違うのです。
2. 国際的な評価が得られる
外交支援は「日本は責任ある先進国だ」と海外から評価されます。
これはその政治家自身の評価にもつながり、国際的な舞台での発言力や存在感を高めることになる。
「世界で活躍するリーダー」というイメージは、国内の支持率にも影響します。
3. 経済界や企業に利益が返る
海外支援で道路や発電所を作ると、実際の工事を担うのは日本のゼネコンや商社です。
また、インフラ支援を通じて日本企業が海外進出しやすくなったり、資源の安定供給が期待できたりする。
経済界は政治家にとって重要な支持基盤であり、資金面でのつながりも大きい。
4. 選挙でアピールしやすい
「〇〇国に支援を決めた」「国際社会で日本の存在感を高めた」というのは、選挙での演説で堂々と使える成果です。
一方、「介護職の給与を月1万円上げました」と言っても、限られた人にしか響かず、大きな票にはつながりにくい。
5. 政権のピンチを覆い隠せる
国内で不祥事や批判が出たとき、外交支援を大々的に発表すればニュースの焦点をそらせる。
外交は「良いことをしている」と見せる格好の材料にもなるのです。
さらに「社会保険料」という仕組みの壁
福祉のお金が動きにくいもう一つの理由が、社会保険料の仕組みです。
介護や医療、年金といった分野は「税金+社会保険料」で成り立っています。
社会保険料は給与から自動的に天引きされる仕組みで、国民からすでに半ば強制的に集められています。
ここに、政治家から見た「旨みのなさ」があります。
- 手柄にならない:保険料を上げれば批判され、下げてもサービス削減で反発される。
- 目立たない:外交のように映えるシーンはなく、明細の数字が変わるだけ。
- 票につながる集団が弱い:現役世代は分散していて組織票にならず、高齢者も「投票で応援」とはなりにくい。
つまり、社会保険料で賄う仕組みは政治家にとって「怒られるリスクはあっても、票や支持を得るリターンがない」分野なのです。
外交と福祉のコントラスト
- 外交 → お金を出せばニュースになる、評価される、企業に利益も返る、選挙の武器になる、不祥事隠しにも使える
- 福祉(社会保険料) → 国民から自動的に集められ、政治家の手柄にならない。下手に触ると怒られるだけ。
このコントラストこそ、外交と福祉のお金の扱いが極端に違う理由です。
結論
「なぜ外交には大金を出すのに、福祉には渋いのか?」
答えはとてもシンプル。
政治家にとって票や支持になるかどうか。それだけ。
外交は政治家にとってプラスが多いから予算がつく。
福祉は票につながりにくいうえ、社会保険料の仕組みのせいで「自分の成果」として打ち出しにくい。
だから一層、優先順位が下がってしまうのです。
介護の現場から思うこと
介護や福祉は「地味」で「目立たない」と言われますが、私たちの暮らしには直結しています。
職員の待遇が改善されなければ人材は減り、利用者や家族の生活も支えられなくなります。
それでも政治がなかなか動かないのは、票や支持の計算が優先されているからです。
けれど本当に大事なのは、国際社会で見栄を張ることよりも、国内の生活をどう支えるかではないでしょうか。
「票にならないから仕方ない」で終わらせず、私たちが声をあげ続けること。
それが政治家にとっても「票になる」と思わせられたときに、ようやく福祉に光が当たるのだと思います。
皆さんはどう感じますか?